僕たちは引っ越すことになりました。お父さんお母さんが去年からずっと探していてやっと見つけた家で、古いですけど静かなところです。
お父さんお母さんが家を探すのに一番苦労したその原因は、僕の存在でした。腰の悪い僕にとっては階段がない家がいいし、僕にひなたぼっこをさせたいので、リビングは日当たりが良いところを、と決めていました。そうなると、一軒家をあきらめ、マンションにせざるをえなかったのです。でも、マンションはほとんどが「大型犬ダメ」です。たまたま「いいよ」というマンションが見つかっても、上の階だと僕の足音が下の人に響くし、2頭以上OKでないとパピーウォーカーを続けることができません。結局、いろんな条件が合わなくて、今のマンションを見つけるのに半年くらいかかりました。僕がいなければもっと早くもっといい家が見つかったかと思うと申し訳なく思っています。

引っ越しはまだまだ先ですけど、今日は、僕と「わぐり」を新しい家に連れて行ってくれました。リビングはフローリングですが、ちゃんと「犬用すべらないワックス」を塗ってくれているので全然すべりません。セレブ犬になったような気になれるピカピカの気持ち良い床でした。
しかし、問題は「わぐり」です。彼女はお父さんお母さんの苦労を知りませんし、新しい環境に置かれるとはしゃいでしまうのです。子犬だからしかたないとはいえ、僕としては、お父さんお母さんがあんなに苦労して見つけた新居を破壊させるわけにはいきません。育成部長の僕は問題犬「わぐり」をしつけることにしました。「わぐり」さえ大人しくできるようになれば、これからお父さんお母さんにはバラ色のドッグライフが待っています。
僕は動きました。ちょろちょろ走り回る彼女のそばに行って首ねっこを抑えました。ところが、どうでしょう。逆に興奮するではないですか! しつけようとする僕に飛びかかってくるのです。僕は足で威嚇したり、抑え込んだりしましたが、彼女は体全体に渾身の力を込めて抵抗してきます。「わぐり」は遊んでくれていると誤解し、ぴょんぴょん跳ねていたのです。少し時間がかかりましたが、僕はどうにか力で抑え、大人しくさせることに成功しました。まだまだ僕と彼女では体の大きさが違います。しばらくはこんなことが続くかもしれませんが、何回か続けているうちに彼女もあきらめてくれるでしょう。
お母さんは僕がしつけている姿を笑いながらデジカメで撮影してくれました。僕も少し調子に乗って何回かポーズをとりました。後からその姿を見たお父さんに褒めてもらうのが楽しみでした。


しばらくしてお父さんが帰ってきました。お母さんは、僕が「わぐり」をしつけていたことをお父さんに報告してくれました。お父さんは笑いながら僕をなでてくれました。いや、よく見ると、お父さんは泣きそうな顔で僕をなでていました。

お父さんの目に入ったのは、ピカピカの床に残った、僕の大きなツメあとだったのです。